労働基準法の違反となることもあるサービス残業。
多くの会社で黙認されながら行われているのが実情です。
そして、自主的に行われるサービス残業に対する会社の主張と社員の主張は異なっています。
それぞれの主張はどう食い違っているのか?
この違いについて解説していきます。
サービス残業とは?
サービス残業とは労働者が行った時間外労働に対し、本来支払うべき賃金を支払わないで行う時間外労働の俗称です。
これは会社の就業規則に関わらず違法となることがあります。
会社の指示で残業をして、賃金が支払われないことは違法となります。
しかし、会社側の指示ではなく、社員が自主的に賃金はいらないからと残業することが今問題になっています。
自主的なサービス残業を把握していない会社、黙認している会社にも責任が問われることがあるのです。
残業時間の法律的根拠
労働基準法上、原則として1日8時間、週40時間までしか労働者を働かせることはできません。
しかし、労働者基準法36条に基づく協定は労使間で結び届出することで、この時間を超えて働かせても刑事罰を受けなくて済みます。
この協定を36協定(サブロク)と呼びます。
そして、この超過した労働時間には残業代の支払いが必要になります。
サービス残業はこの超過した勤務時間の対価となるわけですが、ここで会社と社員との間に考え方の食い違いが発生するのです。
⇩36協定についてもっと分かりやすく!
>>36協定を簡単にわかりやすく要点だけ解説します:2019法改正
自主的なサービス残業に対する会社の主張
社員の自主的なサービス残業に対して、会社側の主張には下記のようなことが挙げられます。
会社の立場としては、自主的なサービス残業によって生産性があがっているのであれば儲けもの。
このように自主的なサービス残業を黙認しているケースもしばしばみられます。
しかし、実際には労務管理上の責任を問われる可能性もありますので、なくしていく方向で管理していく必要があります。
詳しく確認してみましょう。
労働者の残業を知らなかった
労働者が自主的に残業をしてることを会社は把握していないという主張です。
出勤簿やタイムカードなど勤務時間については労働者が報告していると思いますが、実態と合わないという場合もあります。
労働者が18時に帰社したという記録で会社に報告しながら、実際には21時まで残業していたとする事例もあります。
管理職は労働者の実態と照らして労務管理しなければなりません。
もし、報告と実態に違いがあるのであれば是正する必要があります。
しかし、会社全体が黙認していたり、推奨したりしている場合もあるのです。
その場合は違法となりますので、刑事罰の対象となるかもしれません。
正確な労働者の勤務実態を会社は把握することが大切になります。
時間外労働の事前申請や理由
管理職や会社もすべての残業申請を認めていたら、割増となる残業代が膨らんでしまいます。
そのため、残業申請を認めるのは最小限にしたいというのが会社側の本音であるといえます。
時間外労働は事前申請や残業が不可抗力である理由を要件とすることで、認めにくくすることがあります。
- 残業の事前申請をしたときに当日中に処理しなければならないのか?
- 翌日ではダメなのか?
- 当日の仕事のさばき方に問題はなかったか?
これらを確認の上、残業申請の可否を判断します。
そこで、残業の必要性についてフルイにかけることで最小限の残業にしようと考えているのです。
労働者の実務スピードに問題がある
残業の申請をしても通常業務の範疇であり、翌日に回せるものや段取りの問題による残業は会社としては認めにくいものです。
また、労働者の実務スピードに左右されますので、仕事の遅い労働者の残業までなかなか認められないのが会社側の主張となります。
そのため、与えている業務量と所要時間の把握が管理職には求められます。
労働者が故意に仕事を遅らせているような悪質なケースもありますので、労働者の能力に合った適切な仕事量を与えることが大切です。
みなし労働時間制度のため認められない
営業職に多く採用されているみなし労働制度。
みなし労働とは、決まった時間はサボっていても一定時間は働いているとみなすという制度です。
特に営業職は外出時の管理が非常に難しいので、働いているとみなしてしまうと会社としては管理が楽になります。
当日中にやらなければいけないことなのか?
営業マンの段取りに問題があるのではないか?
遅い時間のアポイントがあるなら、日中休めば良いのではないか?これらを口実に残業は認めにくい制度になっています。
⇩みなし労働時間制度について確認できる記事
>>みなし労働時間制と裁量労働制の違いとは?営業職の取扱いはどっち?
サービス残業したいと言われても困る
仕事が好きだから、自分のペースでで働きたいからと率先してサービス残業する社員も存在します。
これを会社の立場で考えると、無料でたくさん仕事をしてくれるから黙認してよいというわけではありません。
ダラダラと残業している社員がいると、つられて残業してくる社員が増えてくるリスクがあります。
管理職でなくとも社歴の長い社員がサービス残業を自主的にしていれば、その後輩たちも残業してしまうことにつながります。
会社の残業体質やブラック化で離職率が上がる可能性もありあすし、体調を崩す社員が出てくる可能性もあります。
会社から残業を軽減しようとしても、自主的にサービス残業するタイプの社員はなかなか改善できません。
会社の立場で考えると、無理やり帰してもモチベーションを下げることもありますので、自主的にサービス残業したいと言われても困るのです。
自主的なサービス残業に対する社員の主張
会社の主張に対して、社員の主張は異なります。社員の主張を下記に挙げてみます。
誰も無駄な残業はしたくないわけですが、サービス残業を自主的に行うのには理由があるのです。
それでは考えてみましょう。
残業申請が面倒くさい
やるべき仕事が終わらず残業申請しようと思っても、高いハードルがある会社もあります。
上司に理由付きで残業申請するわけですが、それは今日でなければいけないのか、明日ではダメなのか、今日なぜできなかったのか聞かれることになります。
ちゃんと理由があっても上司に難癖をつけられるかもしれません。
この上司への残業申請が面倒くさいことが、自主的なサービス残業の温床になっている可能性が高います。
結果認めてもらえなかったり、小言を言われたりするなら、残業代はいらないから自主的に残業しよう。
上司の立場で残業が適正かチェックすることは大切なのですが、社員の立場で考えると非常に面倒なのです。
仕事量がありすぎて終わらない
自主的なサービス残業してでも仕事をしないと翌日以降もっとしわ寄せがきてしまう。
このように答える社員は後を絶ちません。
単純な社員への実務量の飽和が残業の要因となっています。
ここでも事前申請と理由で申請が認めてもらえないことがありますが、認められた残業を超えてでも飽和している実態がある場合も存在します。
仕事を分散してもらえないと残業するしかない。
残業を認めてほしいが認めてもらえないという状況になると、会社には明確な責任が生じてきます。
そして、社員の真意としては、自主的にサービス残業でもよいから仕事をさせてほしいという部分もあります。
それが責任感や意欲かもしれませんし、自分の仕事量の飽和かもしれません。
残業代が出なくても働きたいのだからよいではないかという主張もあるのです。
自分のペースで働きたい
時間に追われて仕事をしたり、生産性や段取り重視で仕事をするのが苦手だったりする社員がいます。
自主的にサービス残業してもからマイペースに働きたい。
せかせかと仕事をしたくないというタイプです。
会社の立場で考えるとそんなに時間がかかる仕事ではないはずなので早く帰ってほしいわけですが、自分のペースで仕事をしたいので早く帰ろうと別に考えていないのです。
上司が帰った後にゆっくり会社で残業するのが心地よく、同じような同僚で集まってしゃべりながらマイペースに仕事をします。
上司のいない社内で話しながら仕事をするのが楽しいという人もいるのです。
出世のために結果を出したい
残業代なんかいらない。
ただひたすら仕事をして結果をだして出世したい。
そのためには残業という手段を使って上積みをしていきたい。
という貪欲なタイプです。
会社から残業しないで帰るように指示されても自宅で仕事を行ったりします。
仕事をたくさんしてくれるのは会社としてもありがたいので、サービス残業を黙認してしまいがちです。
出世のための手段として人より多く仕事に費やそうと考える社員もいるのです。
家に早く帰りたくない
家庭の事情で早く家に帰りたくないので、自主的なサービス残業で会社にいたいという社員も存在します。
- 家族との不和
- 小さな子どもの面倒をみるのが大変
- 嫁・姑問題
- 親族の介護
家庭内の問題に悩まされていると早く帰りたくないとなることもあるのです。
だからといってサービス残業を黙認するわけにはいきません。
会社としては周りへの悪影響もあるので早く帰らせる必要があります。
サービス残業は自主的に行ってもダメか まとめ
結論からいうとサービス残業は自主的に行ってもいけません。
ただし、サービス残業について会社側の主張と社員側の主張では食い違いがありますね。
- 残業代を最小限にしたい会社と仕事の終わらない社員の食い違い
- 早く社員を帰らせたい会社とサービス残業でもよいから働きたい社員の食い違い
この2点については平行線になりがちです。
双方が歩み寄ってサービス残業をなくしていくと考えなければ解決はないのです。
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